|
つむぎ論壇 |
| つむぎ論壇 > 「つくば知識産業都市」に向けて |
平成17年秋から常磐新線、いわゆるつくば新線が開通する。
産学官連携による新事業創出が競争力強化の要として国家的課題となる中、 つくばは、従来の研究学園都市に加えて、 その知的資産を活用した新事業が創出されることにより、 知識産業都市としての機能を果たすことが強く期待される。 ここでは、このつくばの課題に向けての最近の動きを紹介し、 筑波研究学園都市から「つくば知識産業都市」の実現のための取り組みに向けての提言を述べたい。
つくばは、筑波研究学園都市として整備が進められ、約30年が経った。 昭和60年のつくば科学万博やその後の民間中央研究所の集積が進み、 生活文化面でも都市としても成熟しつつあるといえる。
しかし、ここ数年前、おそらく科学技術政策の急展開がみられた時期から、 つくばは、旧体制の縮図のようなイメージで語られ、精彩を欠いていた感は否めない。 また、ベンチャー不毛の地とも言われていた。 また、理研、産総研等の一部研究機能が移転され、他地域での研究拠点作りがなされる一方、 研究学園都市としてのインフラ整備がほぼ終了し、 新たな建設計画(平成10年閣議決定)も具体化されてこなかった。 これらがつくばの地盤低下を示すものであるとされた。
しかしながら、平成13年度からの国立研究所の独立行政法人化などに伴い、 産学官連携による新事業創出に向けた取り組みも急速に拡充しつつあり、 つくば発ベンチャーへの期待も高まってきた。 16年度からは、筑波大学の国立法人化も予定されている。
今後、つくばの目指すべき課題は、知的資産を事業化に結び付け、 バイオ、ナノテク、IT、環境、半導体、食品、医療、研究支援産業などの分野で、 新事業を創出し、知識産業の集積にまで高めることである。 それを地域連携の仕組みの中で議論し、実行していくことが重要である。 つくば新線が開通しても、都市としての付加価値を生み出す経済力・産業力と生活文化面の魅力と 情報発信力がなければ、つくばは、地盤沈下し、新線沿線の開発が停滞する懸念がある。
第一の課題として、つくばの官民の研究集積の効果を引き出すために、 官民研究機関の連携・融合化、産学官連携の仕組みが必要である。 桁外れの集積であることから、桁外れの産学官連携の仕組みが必要になってくる。
第二の課題として、産学官連携の仕組みの一環としても位置付けられることであるが、 新事業・ベンチャー企業創出拠点であること、また、それらの企業が東京に出て行くばかりでなく、 つくばに定着するための事業環境の整備が必要である。
さらには、研究者(特に、外国人研究者)やビジネス関係者がつくばに定着するだけの 魅力的な生活文化環境を整備していくこと、研究学園都市をビジネスと市民生活の息づく都市に 厚みを加えていくことが第三の課題である。
次に、茨城県の旗ふりによる産学官連携や断片的ながら、つくばの新しい動きについて紹介したい。
茨城県を中心に筑波大学、産総研など公的研究機関、支援機関、産業界など関係機関の コアメンバーによる「つくば連絡会」が13年に発足し、 つくばからベンチャー・新事業を100社創出するための「つくば新事業創出プログラム」が策定され、 その中での提案は、現在では、ほぼ全てが実施されてきた。
これらの活動を土台として、「つくば・東海・日立知的特区計画」が 平成15年4月に第一号認定を受けた。知的特区の目指すものは、 第一に、縦割りの官民研究機関を融合化し、産学官の本格的連携を図ること、 第二に、外国人研究者の受け入れ体制の整備(国際学校の設置基準の緩和、入国管理・審査の緩和)、 第三に、研究機器・施設の民間利用、ベンチャー企業・中小企業からの調達を促進するなど ベンチャー支援の充実である。 また、日立地域など県北地域のものづくり産業集積との連携を深めることもねらいとしている。
また、知的特区の関連事業として、 バイオ分野での融合研究や事業化を進めるためのバイオ・ゲノム推進会議や技術経営(MOT)の プログラム開発などを進めてきた。
つくば市もこれらと連動して、つくば産業振興戦略を策定・実施している。
これらにより、他の先進地域と遜色のないベンチャー支援・産学官連携の仕組みが 整ってきたといえる。以下、簡単に紹介することとしたい。
ベンチャー・新事業支援として、分野別の産業フォーラム(8分野、350社が参加)、 ベンチャーマーケット(ベンチャーや新事業の事業計画発表会。200社・機関が会員)、 つくば創業プラザ(つくば研究支援センター内の県立インキュベーション施設)の開設、 ベンチャーへの投資・融資の拡充や税制優遇などが実施されてきた。 長年の懸案であった、ベンチャーや研究開発型中小企業による研究機関からの調達促進については、 県からの推薦状の交付や研究機関との協力による講習会などが始まっている。 また、バイオツール協同組合が本年4月に設立、研究機関の機器の試作・開発の受注に 意欲的に取り組んでいる。
知的特区による規制緩和事業として、時間内兼業、民間による研究機器・施設の廉価使用、 外国人の入国管理・審査の緩和などが進められている。 また、国際学校に実績のある沼津の加藤学園がつくば進出に意欲的であり、 特区制度を利用した国際学校の設置について検討が進んでいる。
分野別の産学官連携による事業化推進のしくみとして、 IT分野の成果を利用した都市生活支援プロジェクトや 霞ヶ浦環境浄化プロジェクト(いずれも文部科学省の都市エリア産学官連携事業)が進行中である。 また、バイオゲノム推進会議を設置し、つくばの総力をあげて、 組織横断的な研究開発プロジェクトを立ち上げるとともに、バイオ戦略の策定を進めている。 今後、ナノテク、次世代半導体、環境の分野でも何らかのフォーラムを作っていくべきであろう。
つくばの知的インフラとして、研究機関の研究者やベンチャー企業経営者向けの技術経営(MOT)、 つくばの知的財産の管理、活用、技術移転を促進するための仕組みづくりも今後重要である。
従来、ばらばらで連携が困難だったつくばの各研究機関や大学相互の連携や行政、 産業との連携も図っていくことも今後の課題であり、今は、ひとつの思考実験でしかないが、 「つくば産学官連携大学院構想」を提案している。 なお、筑波大学では、大学院の特別専攻運営を研究機関に任せるような新研究大学院の構想を進めている。
今後、これら研究集積から事業化していく構想を多く束ね、 その実現に向け、知的特区の規制緩和を利用しながら、 地域連携で進めていくということが重要である。
ゲノム研究における基盤的研究を官民共同で進めることにより、 画期的なゲノム創薬手法やゲノム情報による診断方法を編みだしていく。 さらには地域医療機関との連携の中で、臨床実験を進め、 これら医療機関を母体に全国ネットワークを作るということも想定いる。 その際、特区内で認められる株式会社の自由診療を活用していきたい。 また、県北の製造技術をつくばとリンクさせ、バイオ・医療機器製造を中小企業も取り込んで、 地域の産業集積にまで高めることも十分現実的なビジョンである。
既につくばのバイオベンチャーの数は、20社以上と一地点では全国有数であり、 その分野もゲノム関係、医療、創薬、健康、食品、植物、バイオ計測機器と多彩である。
また、イネゲノム研究の実用化として、アレルギー予防や健康のための高機能食物、 農薬の少ない農業の実現などを茨城県や企業との共同研究により進めていくことも一つの構想である。
IT関連では、茨城県の未来型の情報都市を目指すつくばスマートコリドール構想や 国土交通省の秋葉原、柏、つくばをIT産業の拠点にしようという IT EXPRESS構想が動き出している。 また、つくばの研究所のスーパーコンピュータを繋いで、 相互運用するつくばWANプロジェクトも稼働している。 ITのように新線開発と相乗効果をねらっていくことが重要である。
また、高度20キロの成層圏に定点滞空する飛行船に、 放送・通信・観測・監視サービスを行うための高高度飛行体IT基地構想もあり、 知的特区による航空法や通信法の規制緩和も検討していく。
つくばの研究者の自由な交流、産学官連携による技術移転の促進等を目的に、 平成12年に、江崎玲於奈筑波大学前学長の下、つくばサイエンスアカデミーが発足した。 各種シンポジウムの開催により、つくばが全国に向けて、具体的なメッセージを発信し、 つくばの対外的な顔になってきた。 また、技術のシーズとニーズのマッチングを図るためのテクノロジーショーケースも昨年は、 800名の参加者を得て、成功を収めた。
産総研は、産業界の一歩先を行く研究を行い、かつ、 事業化していくことが使命であるといえるだけあって、 ベンチャー創出・支援の仕組みは、相当に踏み込んだものとなっている。 さらに、ベンチャー開発センター(東京丸の内)では、 ビジネスクリエーター及びベンチャープランナーにより、事業化できそうな特許等を選定し、 上からベンチャーを作っていくという構想だ。 つくばセンターで、そのうち7〜8割を占めることになるとすると、 産総研は、つくばベンチャーを牽引していくことになろう。
また、今年5月に開所式が行われた三井物産のナノテクパークもつくばのイメージを変えていくだろう。 筑波大学、早稲田大学、産総研との13のプロジェクトが進行中とのことであるが、 つくばを中心とした研究シーズの事業化に向けた研究と事業化をねらったものである。 つくば地域には、大企業各社の中央研究所をはじめ100以上の企業の研究所が立地しているが、 このアプローチは、これら研究所のあり方に影響を与えるだろう。
産学官連携の仕組みを数多く作ること。ずば抜けて大きな研究集積であるから、 その仕組みも質、量ともにずば抜けて高く、大きなものが求められる。 急速に進みつつあるが、まだまだ。また、地域間で、知恵くらべ、制度競争でもある。 さらにいえば、北京の中関村や米国のオースティンなどと比較して、 国際競争力のある仕組みができるかどうか。 米国のオースティンやフィラデルフィア等々では従来産業型集積からバイオ、医療、 IT産業等が起こっているが、自治体と大学・研究機関が産学官連携の中で、 地域発展のためのプログラムを周到に作り、実施してきたものである。
つくばには、官民の研究機関が多数立地しているにもかかわらず、相互交流が少なく、 さらには、企画、人事、予算面で東京に伺いを立てなければならなかった。 今後は、独立法人化により、東京・つくばの縦関係から脱却して、 研究機関の連携、さらには地域連携により、つくばの力を束ねること、 「タテをヨコにすること」がつくば活性化の要である。 「霞ヶ関をみないで、霞ヶ浦を見て」活動しよう。
ここでいう特区は、規制緩和事業を行う構造改革特区とは違っていて、 E.A.ファイゲンバウムらのいう起業を促す生態系(ハビタット) (注:「起業特区で日本経済の復活を」日本経済新聞社)で提唱されているものである。 その中で、@「Buy、Buy、Buy作戦」〜新興企業家らの調達の義務付け、 A起業家向けの知的所有権〜新興企業への技術ライセンス供与、 B起業特区の設置〜起業の成長を促すハビタットの設計、 Cイノベーションの巨人に〜大企業の起業特区。
その基本的アイデアは、たいへん参考になる。 以上の4項目の事項で想定されている内容で、 大企業を公的研究機関と自治体・産業支援機関と置き換えることにより、 かなり現実的なつくばの起業特区イメージが浮かび上がってくる。
つくばの公的研究機関は、行政目的に応じた環境、防災、食の安全、 各種規格・評価などの研究が行われているが、 これらの研究成果としての新技術を社会経済システムに導入する際の社会実験をつくばで行っていく。 その一例として、IT分野で筑波大学、産総研の情報技術の成果の活用について、 救急車(遠隔医療)、聴覚障害教育(遠距離教育)、警察(防犯カメラ)などとの協力が進んでいる。 必要なものは、知的特区の規制緩和を活用することが可能である。
外国人研究者が安心してつくばに来るためには、 教育や医療のインフラが不可欠であることは国際的常識であるが、 わが国では、往々にしてこのような環境整備がうまく進まない。 国際学校は、10数年来の悲願であったと聞く。また、技術経営や知財戦略は、 つくばの知的資産の事業化に不可欠のインフラであり、つくば全体で整備することが必要であろう。 つくばの知的財産戦略に関するフォーラムが必要である。
つくばのまちづくりや環境保全に尽力するNPOなどのグループやまちづくり構想は、 多いのだが、意外と連携が取れていない。多層なまちづくりの取り組みや市民手作りの活動にこそ、 成熟したつくばの新しい都市の魅力があるのではないか。 これまでのような自治体と公的機関が絵を描いてしまうやり方では、 つくばの街の魅力は、引き出すことはできないだろう。 そのために、まちづくりに取り組むグループのネットワークを構築し、 多彩で、調和の取れたものにしていく。
つくばの情報発信のためにも、新線開発のためにも交流人口の拡大を図ることは重要であるが、 科学教育や各種科学セミナーは、つくばオンリーワンともいえる潜在資源ではないか。 科学万博のイメージもまだ残っているので、 例えば、ポケモンミュージアム(石原恒和氏は、筑波大学一期生)と科学ツアーを組み合わせて、 成熟したつくばをもう一度訪れてもらうなどのアイデアもある。
40年前に閣議決定された筑波研究学園都市建設大綱は、筑波の都市計画のいわば憲法である。 それは、筑波に国立研究機関を集中立地させ、 科学技術・学術の拠点都市を形成しようというものであった。
今、科学技術政策も大きく、舵を切り、産学連携による新事業創出が最大の命題であるとすれば、 2.4兆円の投資を行ったつくばの再デザインを行うべきである。 大綱の見直しまではいかないとしても、知識産業都市としての機能を付加させるべきである。 地元、茨城県ができることは十分に果たした上で、 国が行うべきことはやはりあるということを主張したい。それは、やはり、根本的な課題なのだ。